・血管内皮細胞班

 血管は全身に血液を運び,臓器や細胞を維持する重要な器官である.血管は血流量を調整する機能を持つ.この機能が低下すると血行障害など様々な疾患につながるが,機能の仕組みは解明されていない.そこで本研究は,細胞と力学刺激との関連性に着目した.血管内面に存在する血管内皮細胞は,血流による流体せん断応力といった力学刺激を絶えず受けている.この刺激に細胞内のタンパク質PKCαが反応し,刺激の情報を細胞内に伝え,調整機能に働きかけると考えられている. 本研究室では血管内皮細胞に対し,引張・つつき・せん断の異なる力学刺激を実際に与え,この時のPKCαの状態を観察することで,PKCαと力学刺激との関連性を調査している.また,細胞内・細胞間の物質輸送に関するコンピュータシミュレーションも行っている.

・細胞遊走班

 細胞遊走は,恒常性の維持,様々な生理機能の発現,組織・器官の発生において基礎をなす機能である.細胞外基質と細胞内部の細胞骨格アクチンネットワークは,細胞膜上に存在する焦点接着斑と結合している.この焦点接着斑がメカノセンサーとして働き,硬い領域に生成された接着斑には牽引力が効率的に伝搬することによって細胞骨格が進展していくと考えられており,これにより細胞は基材の弾性率の違いを感知し,より基材弾性率の高い領域へ遊走する.しかし,表面に微小凹凸構造が存在するとき,細胞の基材弾性率の高い領域への遊走挙動が逆転することがある.細胞遊走班は,表面の微小凹凸構造導入による細胞の基材弾性率応答への影響を調べ,そのメカニズムを解明することを目的としている.

・肺班

 肺胞は呼吸に伴い膨張収縮を繰り返すが,その変形は肺実質の複雑な形状や肺組織の弾性,肺サーファクタントによる表面張力に支配され,複雑な変形に伴う気道末梢部位での流れや肺胞壁の力学状態は十分に把握されていない.そのため,呼吸運動によって大きく変形する中で,肺胞を構成する細胞の力学的環境やそれに対する細胞応答も明らかになっていない.特に肺が炎症しリモデリングが起こると,肺サーファクタント分泌量や肺胞壁の機械特性が健常肺とは異なり,力学環境の変化による細胞の機能変化も考えられる.本研究では,健常時および肺リモデリング時の気道末梢部位の力学環境とそれに対する細胞の力学応答を明らかにすることを目指している.そのために,高輝度放射光CTを用いて気道末梢部位の肺実質微細構造の動態解析を行い,その結果に基づき肺胞内の流れ場および肺胞壁の力学状態を把握する.さらに細胞培養実験により肺胞上皮細胞機能の変化を細胞内・細胞間シグナル伝達の側面からも検討する.